協働型大規模災害訓練について

はじめに

川内村からの報告

2月2日・3日の二日間、杉戸町にて「第5回協働型災害訓練in杉戸」が開かれました。まずはこの事務局を引っ張ってきたNPO法人すぎとSOHOクラブ代表の小川さんが、この正月に急逝されたことに哀悼の意を表すとともに心からのご冥福をお祈りしたいと思います。彼とは20年近い友人でした。

さて、先週末の大雪に続き、2日は平日でおまけに前日夜からの雪で交通が混乱して参加者が少ないかと予想していたのですが、行政や関係者の参加が多かったのか、悪天候にめげず100名以上が出席しました。用意した資料が足りないところで、事務局メンバーなどには行き渡りませんでした。(途中出入りがあるので事務局発表の公式参加者は150人だったそうです)

反対に翌土曜日は、好天に恵まれながら、ボランティアだけになったためか想定より半数の70名程度になっていました。かなりの知り合いの団体が欠席で少し寂しいところですが、新人や新しい団体の参加もあり、それはそれでうれしいと同時にそれだけ災害ボランティアへのICSの浸透や深化には課題が残ることになったような気がします。

それでもソーシャルインパクトワークスの清原氏の「全国でこの規模でのこうした協働型訓練はいまだない」という高い評価に表されているように、多くの災害ボランティアが年に1度でも結集してのこうした訓練はまだどこにもないのは確かで、後藤先生がよくいう「防災まつり」という意味では大きな成果を上げていると思います。事務局、災害支援部会はじめ行政や炊き出しの双葉町、浪江町の避難の方など関係者のご努力とご協力に感謝したいと思います。

第5回目の訓練報告と反省

内容に関しての報告としては、訓練1日目は、今回は「福祉避難所」開設という話でトップバッターの<チェックイン・タイム>でHUG(避難所・運営・ゲーム)のオーダーで登場することになりましたが、このHUGは、2007年開発で、すでに10年以上の前のゲームで、短時間で矢継ぎ早の読み上げでパニックの臨場感を体感させるレベルでのゲームではもったいないので、このゲームを各地域で実施する際の注意点(振り返りの大切さ)などと、今日のテーマである「福祉避難所」に関しての実際的な災害トリアージと避難所トリアージ、要援護者トリアージに関して映像を交えて最近の研究結果を紹介しました。(配布した資料は『災害トリアージと避難所運営』災害救援ボランティアテキストⅢ

医療トリアージと対処法

こうした参加者がバラバラな訓練には本来きちんと練られた「オリエンテーション」が必要で、目的は、この訓練の目的や達成目標、時間プログラムと登場する講師などの紹介、全体の流れを明確に理解してもらうことにあります。そのためにどのような手段・方法で進行するか、また目的が達成されることで実際の災害対応にどのような効果があるかを丁寧な案内を説明する必要があります。会場の案内図、掲示板を決め、変更になったプログラムは壁に掲示するなどの工夫も大切でしょう。

私自身は、チェックイン・タイムで予想される、事務局は遅れた準備や来賓、遅刻する参加者対応でてんやわんやするという過去の経験から、私のミッションを勝手に自分のパワーポイントでオリエンテーションを行いました。それは以下の通りでした。

  • 1.災害イマジネーションを高めるー災害から学ぶ
  • 2.福祉避難所と災害トリアージの理解を進める
  • そのために「災害エスノグラフィー※」から学ぶ知恵、教訓を感じ取る
  • 従来のマニュアルやゲームのブラッシュアップ(支援と受援力向上へ)
  • より具体的な災害ボランティアが使えるチェックリスト(案)⇒初動対応力の向上
※災害エスノグラフィーとは、広く災害での被災者の声や救援担当者の話を聞くという、あるいは「語り部」として被災地で語り継ぐ方法で皆さんにもなじみがあると思いますが、そもそもは、異文化の理解を広める調査法でエスノグラフィー(ethnography)は、ギリシア語のethnos(民族)、graphein(記述)から来た英語で、「民族誌、民族誌学」と訳されています。民族学、文化人類学などで使われている中心的な研究手法で、フィールドワークによって行動観察をし、その記録を残すことです。今回は福島の原発事故から避難した川内村、富岡町の状況を聞くことになりました。
 要するに、1日目は「災害のイメージづくり」と「福祉避難所の理解」ということが目標でした。改正された災害対策基本法での避難所の在り方と支援物資の配布や「福祉避難所」という二次避難所への移送といった訓練に結び付けることが今回のミッションだったと思います。私自身も、県庁からの「埼玉県では全市町村に1か所以上の福祉避難所の指定が出ている」という報告は初めて知り、指定されながら実際に設置や運用の現状を各地での検証が大切だということを知ることができました。また、午後のそれぞれの分科会方式のワークショップも大変勉強になり、充実した時間となりました。残念なことは。アマチュア無線の可能性や実際の医療関係との連携方法、多言語プログラムの活用の実際など、もう少し事前知識と各担当者への時間配分に余裕を持てればというのが感想です。

2日目は、まさに過去4回にわたる「災害ボランティアの市民ICS」の完成へ向けての総決算を期待していました。ところが、ICS基礎講座ということでFEMA留学でのICSコースを履修、ICSの学位を取得してきた専門家である山上さんのICS作成ワークを期待していたのですが、この雪害で北海道から来られなくなったという話で残念でした。

浪江焼きそば

このICSのイントロダクションなしで、午後のテーマでもあるCOP導入と引き続き清原氏のそのICS応用としての「GISを活かしたCOP(状況認識の統一:Common Operational Picture)」の話に入り、初参加の方にはICSの基本理解がないままに進んでしまったのではないかと、もったいないという思いでした。
おまけに、急遽、東日本大災害当時、唯一岩手県災害対策本部に入ったDMATの岩手医科大学の秋富医師(現防衛医科大学)が登場。相変わらずの話し上手で会場の聴衆を魅了する講義で人気を集めたままあっという間に帰ってしまい、せめて参加者には岩手県災害対策本部での著作の紹介など、事前の告知などあればよかったと思います。残念が重なりました。

COPの説明をする清原氏

それでも秋富氏や清原氏の話で現在進んでいる国レベルでのプロジェクトの一端がわかり、従来の「想定⇒予定・計画⇒結果」というRisk Managimentから「想定外⇒予定・計画外⇒ICS⇒結果」という災害対応のマネジメント、情報網の整備のプランニングやオペレーションができ始めていることが理解できました。また、さすが秋富先生は国の高額なIT活用やシステムづくりだけでなく、現場の市民レベルでの「できる」「できない」状況に落とし込めるかが大切であることを伝えていきました。秋富さんはそれを「ドラえもん」のジャイアン方式と名付け、「誰が、いつまでに、なにを」という現場主義と指摘したように思います。

その意味で今回の「想定する状況・災害規模のイメージ」を清原氏や後藤先生が言うGIS活用でのCOP(Common Operation Picture)という「状況認識の共有」のポイントなのだと思います。清原氏はそれを「知る→学ぶ→伝える」という流れの重要性で表現していましたが、同時に情報は得るだけでは駄目で、待っているのではなく自ら「取りに行くもの」としての「何の情報をもらうか」というファンクショナル・アプローチといった重要な方法論を教えてくれました。
この辺は秋富さんの避難所での「声なき声」に対応する、例えば子供、女性に防犯ブザーを持たせるといった「行動」に落とし込める実例に共通しているのでしょう。まさに「情報は力」であり、行動原理に結実するのだと思いました。この辺はいつかもう少しわかりやすく説明する必要がありそうです。

支援物資運送部隊の訓練

後半は、ICS図上訓練ということでしたが、過去4回、私自身は実行部隊、後方支援部隊と体験してきて、昨年から年齢的に目が悪くなり、おまけに腰痛で災害支援部会では「戦力外通告」を受けていましたが、今回、人出不足から想定外の「本部」体験を初めてすることになりました。
ところが昨年は平日ということで、本部に行政、あるいはICSや現場経験者、NPO側のリーダーがいましたが、今回は部会長と私以外が初参加の方で、救助犬やヘリコプター部隊NPOのリソースや流れの理解もなく、図上訓練の意味の理解も不足していて、まったくリアリティのある訓練や他の部隊のオペレーションも把握できませんでした。

またせっかくCOPの重要性が言われながらシナリオも配置図も昨年のままで、昨年の振り返りや反省点の修正もスキルアップもなく、進歩もなかったのではないでしょうか。もっとも私は都合で中途退出でしたから、あまり偉そうなことは言えませんが、この大きな原因は、以前から指摘している通り、このイベント自体が全くICSを活用していなく、むしろ悪い例として1人に情報集中、メンバー間の共有や組織化がなされないままだったこと。COPや時間軸の理解が共有できず、初動の72時間の救助犬やヘリ部隊と並行して避難所が既に開設している想定のグループなど準備期間や事前協議などのイメージが混在してしまって、肝心の「情報・計画部隊」「参謀」といった情報リエゾン不在で、行政やその他の機関との「連携」が深化しなかったこと。

マッピング班

そして、想定する災害状況の報告がスクリーンに出されるような演出がないため、GIS活用とCOPへの理解も得られなかったことがあげられます。
わずかですが、マッピング班がドローンを使って国道4号線沿いの地図を作成、それがネットで共有できるという成果があります。この地図を会場のスクリーンに映し出し、4号線を都バスが200台杉戸方面に移動中といったシナリオ、情報が流されれば、臨場感はアップし、あと何時間で避難所開設しなければならないなど、訓練に有効だったと思います。少なくともICS上ではマッピング班という組織は位置づけていないので、情報計画か、ヘリ部隊の中に位置づけるかなど組織上のチーム運用をシステム化できればと思います。各部隊の機能は組織、運用をテコ入れする必要も感じました。

本部、関係者会議

過去にも指摘してきましたが、いつまでたっても本部の机上には杉戸町の地図が用意され、杉戸町の自主防災組織のDIGレベルから発展してのブリーフィングができない状況では、全県レベルの、あるいは東京都での被災状況をイメージするCOP体験やGIS活用は難しいのではないでしょうか。
そもそもICSは、現場に駆け付けた小グループから体験できるものであり、まずは各テーブルでのリーダーがICS100レベルの知識は事前学習として必須だと思います。一般市民と同様なメンバーとでは高度な指揮命令系統を構築するには無理があり過ぎると思いました。
まして本部要員はICSに習熟したプロボノを配置して全体のイメージを明確にした人的リソースがなければ、部隊全体が崩壊しかねません。各チームの人員配置をチェックイン方式のICSで、2015年版「災害NPO&ボランティアのICS入門」レベルは事前学習で相互理解が前提にならなければ、各部隊の機能や計画書を書くこともできなかったのではないでしょうか。

まずは計画情報部(Planning Section)メンバーだけでも泊り組で組織するとか、昼休みに計画立案してメンバー配置図を作るぐらいの実行力が欲しかったと思います。せめて、本部指揮所(ICP)の人選と会場に残っている現有勢力の員数合わせがなければ、人員の待機場所(SA)でのチェックイン、彼らの宿泊基地(IB)づくり、行政との調整リエゾンメンバーや班長会議など、東京から移動してくる避難民が到着する前の3日間に何をしなければならないかのシナリオづくりと、ICS Form202や203、204の書き方指導、そして、関東圏、最低でも東京都と埼玉県の地図上での時間軸の刻々と変化する災害状況や避難状況をマッピングして、各部隊にどうブリーフィングするかの「図上訓練」ができることが望ましいと思います。

 この協働型訓練を成功させるには、少なくとも数回の市民講座型でいいので、「災害ボランティア講座」や「ICS研修会」を受講してもらい、各単位取得者、修了者、少し熟練した方にはさらに情報リエゾン、リーダー研修といったプログラムを用意して、各修了証を発行するくらいに、FEMAまでいかなくともシステマチックに、プロセスを大事にする必要があるでしょう。
元々ICS自体がそういうプログラムでできているはずで、これも全体の企画担当、主催者側の勉強不足準備不足と言わざるを得ません。それらの集大成が「図上訓練」であって、日常的に自分の組織、グループ、小さなイベントでもきっちりICSを活用してPDCAサイクルで体得することが、今後の進化には欠かせないのではないでしょうか。
後藤先生の話ではありませんが、本家のアメリカでもICSが定着するまで30年近くかかったそうですから、二番煎じのスピード感を持っても10年かかるとしても、5回目までの棚卸や振り返りをきちんと行うことで、どう本物の「協働型大規模災害対応訓練」が完成するのか。引退前のロートルとしては、早めの普及や成功のための再構築を願ってやみません。

 蛇足ですが、災害ボランティアは熱き想いが強いせいもあって、実際には多種多様過ぎで唯我独尊、我流で会議や講演会のルールも無視する人もいます。おおむね記録やマニュアルは読まず、人の話も半分という基本的にはコントロールが難しいのが過去20年の全く独断と偏見の体験的感覚です。富岡町の郡山市庁長や秋富さんが指摘していたように、災害時にはボランティアか犯罪者化の見分けもつかない、統率が取れない人々も流入し、実際、盗難や性犯罪も起きているのが実体です。小さな信頼の積み重ねが一瞬にして崩壊することもあります。信頼の構築はきちんとした組織づくりにあります。言い換えればスキルがある信頼できるメンバーやチームが必要なのです。まさに「人材」です。
ビジネスマナーや知識を持って、謙虚にICSを学習する人間をいかに増やすか。これは民主主義を広めるのと同じように一筋縄ではいかない作業なのだと思います。そして、時間軸から「救援・救助」と「復旧」「復興」ボランティアとそれぞれの定義と役割を明確にした、それぞれの訓練の必要性もあるのではないでしょうか。
勝手な感想で叱られそうですが、避難所での「拍手会」や「称え合い」ではなく、この際、厳しい反省と完成度を求めて、引退する老兵の愚痴かもしれませんが、お耳をお貸しいただければ、マニュアルなども小冊子もそのうちまとめてPDF化したいと思いますので、ご活用ください。(Y)
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