首都圏直下型大震災支援シュミレーション

sugito20671月29日、30日の2日間、埼玉県杉戸町の彩の国いきいきセンター・すぎとピアを会場に、3回目となる「協働型災害訓練」が行われた。

3年目ということもあってかなり中身が充実したものになったが、あいにく寒波で雪情報もでていた影響で参加者は一番悪かった。それでも1日目は50団体80名、さらに天候不順の予報の2日でも60名以上が参加。NHKの朝の首都圏ニュースに29日の訓練が採り上げられ放映されるなど、ある一定の効果が出てきたところだろう。

sugito265この訓練は、3年前、国土交通省の地域間連携事業として東日本大震災での支援、連携関係のあった埼玉県杉戸町と福島県富岡町、川内村、そして、NPOや災害ボランティア団体の連携「市民キャビネット災害支援部会」といった、行政、社協やNPOなどとの広域連携「協働型災害」に対応するものとして来たが、今回は一部を赤い羽根共同募金会の助成を受けながらもほとんどを手弁当の自主事業として行われた。

3回目だけあって、ICSに基づかれたシステム化に慣れてきたこともあり、かなり具体的に活用されたと評価できるだろう。詳しいプログラムなどや個々での内容に触れられないのは残念だがご容赦。

sugito264(写真は2日目に参加した内閣府国土強靭化推進本部の)

1日目のICS・DIGでは、私の「後方支援部隊」で災害VCと災害ボランティア養成で知り合った杉戸や春日部の地元の方と2日目の政策提言をまとめるヒントのテーマ「市民救助隊=災害ボランティア養成」について、杉戸町の防災担当の職員2名、行政区長、自治会長2名、春日部の自治会と東京の連合ボランティアチームの公務員の方という編成で大変参考になる濃密な意見交換ができた。
阪神大震災時に自治労のボランティア経験者からそれぞれ行政や自主防災組織の経験など本音での議論は、杉戸町リソースの具体的検討も含めて今までにない深い情報を交えて、いい経験だった。

概ね成功で、それぞれに満足できた訓練だったと思う。

sugitoHUG(写真は2日後半のHUG:避難所運営ゲームの説明をする上村講師)
2日目に参加した内閣府の国土強靭化計画推進担当の官僚からも、こうした試みが高く評価されたことからも大きな成果だったといえる。

それでもあえて長くなるが、今までの経過をまとめるというより、そこは割愛させていただき、今回の反省点、今後へ向けての課題を報告したいと思う。
初めて読む方には、ICSなどの説明や今回の訓練のプログラム内容が省略されているので理解しずらいかもしれないが、3回参加した災害ボランティア向けとの旨、ご理解ください。

sugito261まず、全体的なコンセプトが明確でなかったか、それぞれの参加組織の位置づけが、救助犬や市民ヘリのグループははっきりしているが、ICSでのグループなどもう少し事前の情報共有が必要と思う。
よく質問される「なぜ杉戸町なのですか?」では、地域間連携というスタートではあるが、想定される前提となるシュチェーションが「首都圏直下型大震災」の発生であり、その被害からは比較的影響の少ない距離にある東北道久喜周辺で地盤が強固、江戸川河川敷のスーパー堤防や物流拠点の民間大手の倉庫基地を有する杉戸町は、東北道や北陸方面からの支援部隊、支援物資の集積中間基地になると予想されている。その意味で杉戸町に「協働型災害対応支援本部」が置かれ、ここを司令部として各東京都に隣接される荒川沿岸地域を最前線とした救援、支援ネットワークが構築されるというシナリオが想定されるのである。sugito262

東京都内は大震災(震度6強)で都内には入ることも出ることも制限され、域内の被災者は難民にならないよう帰宅困難者として援助を待ち、3日後に埼玉県内に避難し始める。
今回の訓練のシナリオは、そうした3日(72時間)の初動体制から避難が開始され受け入れが始まる段階から3週間程度の避難所運営地域としての杉戸町との連携というものであるだろう。大規模災害支援は、自分たちの町を守る自主防災組織ではなく、広域な災害対応ボランティアのネットワークと行政各機関との連携が必要であるという想定に基づいている。

今回も3回目となる訓練の背骨に当たるのは米国のICS(インシデント・コマンド・システム)の導入であり、その習得を目標としてバラバラな関係機関がいかに効果的に「協働」できるかが目標で、今回はそのためのICSと同じ歴史的経緯で発展してきたFEMA(アメリカ合衆国連邦緊急管理庁)とその市民部隊でもあるCERT(米国の自主防災組織)の理解の共有と、そこから日本版の研究や政策提言ができるかに成果がかかっているともいえるところだが、残念ながら運営幹部にそこまでの共通理解があったか、シュミレーションとしてもインタラクティブにロールプレイングが活発になるまでに情報共有が流動化するまでには至らなかった。

sugito263座学や概念、知識の共有より、「訓練」という形式でアクティブ・ラーニングの成功は、特にICSはマネジメントであり、やはり本部の企画力、情報計画部のシナリオにあるといえるだろう。
そのシナリオをブリーフィングで各部隊に共有。綿密な状況設定と刻々と変化する情報収集、情報発信で計画が修正され、各部隊がそのリソースでいかに実行を行い、その結果や効果を本部に出すことで状況が変化するというダイナミックな図上演習ができると、シュミレーションゲーム、ロールプレイングゲームとしても面白くなる。

その意味でも、あまりに盛りだくさんなメニューで、対象も不明確な分、消化不良の感もある。あくまでもICSのDIG(災害イメージトレーニングゲーム)に的を絞る方が効果的だと思える。それに対して、ハザードマップの見方やHUGなどへのストーリーができていなかったように感じた。それ故、それぞれが時間に追われ、それぞれが単独のゲームで、参加者が初めて参加する市民や町会の自主防災組織向けとの差別化の認識が欠けていた感じだ。行政や代議士の挨拶などのセレモニー的な時間や天候、交通の便からも必ずしも好立地でない会場を考えると、もう少し時間的余裕もほしいところだった。
インタラクティブなイメージトレーニングとしては、具体的に言うと、今回、財務会計部隊から指摘があったように、この作戦の全体的イメージが本部にないと、いくらの資金が必要で、その調達を駅頭での募金活動で賄うという計画に対し、何駅で何名のボランティアが必要で、それをどこに要請するのかなど、本来は計画情報部からの指示を検討して、同時に折り返しボランティア人員確保を後方支援部隊に依頼するといった流れが出ることで、各部隊のみでの議論でなく、情報がやり取りされることで自分たちのやるべきことがもっと明確にイメージできる。
また、炊き出し部隊が想定される避難者1,000名の食事に対し、後方支援部隊が社協と受付している災害VCでの200名のボランティアの食事を考えなかったという反省にあったように、それぞれの情報共有の重要性やチェック体制などリソースの再確認ができたはずである。

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前回よりよかったのは救助犬や市民航空の団体は専門的なメンバーが同じテーブルで議論できることで、前回のようにランダムに関心のないところに配置され、一般的なDIGやHUGの体験に終わらず、かなり具体的な進展が見られたことだろう。それだけにもう少しシュミレーションでICSの大隊規模での運営をロールプレイングできればダイナミズムが生まれ、インタラクティブな関係が築けたと思う。
でないと各部隊で議論が始まると「本部は暇だ」という声が聞かれたが、本来、富岡町、川内村からの応援は何名で、どこにキャンプし、所属や食事などの手配など作戦遂行の戦力に加えるにはどうするかなど、各部隊に次から次の課題も出てくることになる。今回の各部隊は実行部隊というより、それぞれの分野別の計画策定の部隊のような内容に終わってしまった感じではないか。

1,000名の東京からの被災者が避難してくる道路は国道4号線なのか、バスで来るのか個別の自家用車でくるのか、6校の小学校の避難所運営につなげれば、2日目のHUGにもかなりのリアリティが出てくることになる。後方支援の社協との災害VC設置訓練、物資集積、配布の人配も募金ボランティアと同様、実行部隊の現状や議論がどうなっているのか、受け入れ可能なのか、ボランティアのローテーションがどんな具合かなど、シュミレーションできるストーリーがリアルな動きとなって図上訓練の活性化につながるだろう。そこを本部や計画情報部がどう仕切るか、それぞれの役割の重要性も認識できるはずだ。そこにこそマネジメント力のトレーニングになる。
このイメージ作りにつながる状況設定やストーリーをもう少し綿密に策定、計画すること。各部隊の役割の再確認とロールプレイングのやり方。特にグループ編成を実行部隊の指揮官を養成する意味でも、コーディネートをしっかり配置しないと素人集団の思い付き議論で終始していては、せっかくのICSのプログラムも生きてこないだろう。特に、自治体の自主防災組織を対象にするのではなく、市民の防災や災害ボランティアNPOの強化へICSを学習させる目的としては、もうひとひねりする必要を痛感した。

ただこうした反省もできるようになっただけの成果があったという意味では、3年目の訓練での学びは多かったろう。図上訓練のやり方もかなり勉強になった。これを生かして埼玉県災害ボランティアなどのカリキュラムや訓練に発展できればと思う。(以上)

 

 

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