5月24日(火)午後2:00~埼玉県の武蔵浦和駅前のサウスピア8階会議室において「埼玉ネット立ち上げのための集会」が開かれた。
これは2月に本部事務局においての初会合を経ての準備会というもので、SLとは「セーフティー・リーダー」の頭文字で子供たちには「汽車」と間違われるが、阪神大震災の教訓を生かして当時の政府官房長官でもあった石原信雄氏肝いりで作られた「災害救援ボランティア推進委員会」が20年以上に渡り、各大学などを会場にSL養成講座として受講してきたボランティアの名称である。既に1万人以上の修了者を輩出する伝統あるボランティア団体でもある。事務局は東京・九段の日本法制学会にある。(写真は装備品展示、会場設営、報告の様子)
そして、このSL講座の上級修了者が実働部隊として作った「公益社団法人SL災害ボランティアネットワーク」があるのだが、今回その埼玉県地区委員会という位置づけでの埼玉県ネット準備会というのが経緯である。
この公益社団法人の組織が、理事会の下に理事会、部会、事務局選出の他に各地域選出の構成員による運営委員会があるので、最低でも各県単位の地区運営委があることになる。ところがこの数年、一番活躍しているのは神奈川県委員会であり、次に千葉県ということで、肝心なお膝元の東京都と埼玉県には残念ながらそういったネットワークがなかったのが実情だ。
そういった状況からいつまでも準備会でもないだろうと、今回参加のメンバーでとりあえず今日を地区委員会、埼玉ネットの発足を宣言しようということになった。正式には本部や理事会承認を経てからになるだろうが、ひとまず「公益社団法人SL災害ボランティアネットワーク・埼玉」という名称で、これでは長いので略称を「埼玉SLネット」とでもしようかというところで、人事と役割分担、当面の活動予定を決めて、細かな会則などは雛形を元にメールなどで検討することになった。会員へは別に詳細や議事録が配布されると思うので、ここでは少し違った視点から報告する。
今回の発足が平日ということもあって10名ほどの参加だったが、組織化できない限り現実には何も動かないということで、当日参加の全員が地域委員ということでそれぞれの役割を自覚しての活動が話し合われたが、ひとまずの3役を決め、そのうち残った6人ほどで懇親会では大いに盛り上がった。メンバーは30代の企業の防災センター勤務の若者を除くとほとんどが団塊の世代+アルファというところで、中には阪神以来のベテランや70代現役、元海上自衛隊の海将、自治会連合会で超多忙な元銀行家と多士済々であった。早速、BANKer、海将(甲斐性)とあだ名も決まり、恐るべし団塊世代という酒豪ぶりも発揮していた。
この組織化参加に関しては、この数年間挑戦してきた各組織を横断する「協働型災害対応」とそのマネジメントのICS(インシデント・コマンド・システム)導入やCFR(コミュニティ・ファースト・レスポンダー)養成という目標がある。縦割り行政の弊害を批判するばかりでなく、先陣争うようなコントロールできないボランティア、NPOや社協、災害VC(ボランティアセンター)の実情をどう克服し、過去の教訓をどう生かすべきかという課題解決のためにも取り組む必要を感じていたからでもある。
その問題点は、多くの「センター」や「ネットワーク」「中間支援組織」を標榜しているNPOや団体はあるが、まだまだそれらを現実化できる組織はないのが実態だろう。そのために組織化され、自立型のボランティア以外は自粛という案内が出る一方で、現地の社協や災害VCの非効率や訓練不足での長蛇の列、長時間の待合、待機、必要な救援や罹災証明を出せる行政機能の支援などある意味で高度なプロボノ(技術的なスキルあるボランティア)養成ができないことではないだろうか。思い付きや感情に流され、勝手な個人参加。連休中はあふれかえり、平日は極端に激減するようでは、きちんとした災害対応、被災者支援は難しいのが現状だ。
例えば、今回の熊本地震でも、埼玉県ボランティア登録制度を有効活用できれば、現地での受付や人配、バスや交通手段の確保、現地宿泊や受け入れ基地などを、被災している当事者の社協や行政がやるのでなく、埼玉県での派遣という形で現地へ行く前にコントロール、役割を決め、一定の基礎訓練を受けたボランティアを塊として、組織的に送ることが可能なはずだ。
5年前、災害支援部会がうまく機能した大きな要因は、3000団体に上るメーリングリストでのITネットワークがあったこと。埼玉県浦和大久保合同庁舎にNPO団体の事務所があり、古いビルのため空きスペースがかなりあり、支援物資の倉庫や仕分け基地に使えたこと。そして、事務局が受託していた厚労省の地域コーディネーター養成講座という基金訓練を、現地で活躍できる災害ボランティア養成講座に切り替えられたこと、の3点があげられるのではないかと思っているのだが、ここにこれからの災害ボランティアの活用へのヒントがあるはずだ。
これがなかなか実現できない背景には、行政や社協が訓練不足、プロ的な人材難(もっとも防災専門でなく普段の業務や介護に追われていることは承知しているが、あえて言わせてもらえばということでご容赦願う)。せかっく集めた市民ボランティアをどう活用するか、当然、ICSの理解もないところでは、集めただけで個人情報保護という名目でほとんどがネットワークも作れず、バラバラに解体され、いつの間にか胡散霧消では大きな戦力にはなり切れないだろう。今の社協や行政の現状ではこれの解決は難しい。
そして、この間のブラッシュアップもあって受講したSL講座で感じたことも同じだ。会場が都内の大学だけあって、そこの学生だけでなく、受講生は災害心理学の博士課程や私同様の現地で活躍していた現役など、組織化できれば志も高く、即戦力になるいい仲間たちだった。残念ながら、この修了生のネットワークもできないうちに講座終了で、また都会の雑踏の中に消えていくような感じで、その後、会うこともない。せっかく掌につかんだ砂が指の間から零れ落ちる虚しさを、この間、幾度となく味わってきた。要援護者や障がい者の詳細だけでなくボランティアの名簿すら「個人情報保護です」と平然と渡さない役人や社協とどれだけ口論したことだろう。
この根本はボランティアのネットワークの意味の理解によるのだろう。特に災害ボランティアは、自分の地域で自分で出来る範囲でやる個人の領域の話ではない。町会や自治会での自主防災組織とも異なる、広域連携での協働型団体行動が求められる都市型災害においては、その役割の重要性はより高まるだろう。1人1人のスキルやIT能力、バディやチームでの行動原則や装備品、資機材への理解やトレーニングは、事前に組織的に養成される必要がある。その基本が恐らくICSだと考えているところだが、「講座が終われば、はいそれまでよ」で解散。「いいお話しでした」の感想で散会する行政の講演会に似て、次の日から実践されることのない教養講座では埒が開かないのだ。
それでも、この災害ボランティアの戦力化を可能にできるのは、各大学で実施されるSL養成講座しかないとも思える。これは高額の資格商法ではないが、それでも1万円でも自己負担で受講する志の高さであり、その志に応えるべく内容のブラッシュアップと修了生の組織化が、公益法人、特に社団(人のゆながり)の使命ではないだろうか。そうでなければ読書だけでいい。
少なくともアメリカのFEMAのようにネット、Webでの基礎学習など地理的格差をなくす努力とともに実効性、実用性のある講座やトレーンミングもいかに増やし、充実させられるか、公益社団法人としての組織化の意味も含めて、これからの災害ボランティアネットワークの中核としてイノベーションしてもらいたいといのが、要望でもある。年間1万人以上の受講者が世に出て、災害ボランティアの現状を大きく変えていってくれることが希望である。(Y)