4回目の協働型災害訓練報告

2月3日・4日、埼玉県杉戸町の「ふれあいセンターエコスポいずみ」を会場に行政・大学・医療従事者・各関係NPO、災害ボランティアが結集して「第4回協働型災害訓練」が開催された。ボランティア活動の鉄則で「鉄は熱いうちに打て」ということで熱の冷めやらぬ前に、報告と振り返りをしておこう。
その前に、さすがニュースが早い、災害情報誌としては一番といえる 「リスク対策.com」が流してくれているのでそこへのリンクもしておこう。

まず参加者数は、東日本大震災から6年になろうという時期もあり、今までで一番参加者数は少なかったが、1日目に120名、2日に60名ほどの参加者があった。(スタッフ、報道など含まず)
細かな報告は長くなるので、式次第や議員さんの挨拶、アイスブレイクなどのイベントの紹介などは時間の都合で割愛させていただき、ここでは全体の振り返りと、訓練の中身ということで、1日目のISCを使ったDIG(図上訓練)と2日目のHUG(避難所運営訓練)を中心にさせていただく。
私が常々思う災害ボランティアにとって肝要な3点は「知識と体験(経験)と想像力」であるが、それをどう結び付け、活かしていけるかの学びがより明確にされた2日間だった。
まず4回目になるといろいろと見えてくるものがあり、今回は規模に関わらずに非常に勉強になって収穫の多い訓練だったこと。スタッフはじめ関係者の労をねぎらいたい。その中でも今回はTVカメラやマスコミの数も多く、国や県、防災関係の議員さん、行政職員の参加が目立ったのではないだろうか。それだけ情報が行き渡り、また関心の高さがわかった。
しかし、その分、以前参加の常連の顔が少なく、積み重ねて学んでいるというより初参加者への啓発や課題の提示という性格の部分が相変わらず重要であるイベントに変わりがないことはあまり進歩していないのかもしれない。
それでも、今回特筆すべきは、4回と続けて参加した杉戸町の防災部局の職員の報告につきる。それはこの「協働型」という10年以上も前から提案してきている訓練概念がようやく浸透し、進化しているという歯ごたえでもあった。
つまり、震災での経験、体験から災害ボランティアのネットワークの重要性や協働型行動、コントロールされ、各組織が連携することの重要性を認識してきた私たちが呼びかけることで、それに呼応してきた行政側の意識の変化である。
具体的には彼は1回目は杉戸の防災計画に応じて外部ボランティアが結集したイメージで、地図も避難所も杉戸町のDIGだった。自主防災組織と行政の連携、ボランティア対応で意識の中心は「杉戸町住民」だったという。それが、今回はようやく首都圏直下を襲う大災害における40Km圏の自治体として、視点が広がったこと。自らが被災自治体として対応するだけでなく、近隣や県、国、そして、全国、極端に言えば全世界からの救援ボランティアや自衛隊、米軍などとの広範囲な連携の受容力に気がついたといえるのかもしれない。

これらの成果といえるものは、この4年間の実績から生まれた「なぜ杉戸で協働訓練か」という問いが、明確に首都圏直下型大震災時に東京から40Km圏内自治体を連携して「後方支援自治体」ネットワークという豊島さんのスライドにも表れていたところだが、これももう少し早めに全体で共有すべき情報だったと思う。同時に、周辺自治体との連携に必要な災害ボランティアは、こうした成果を普及する「広報・情報将校」であり、そこはICSにもある重要なセクションでもあるだろう。まさに、この訓練の主眼は、そうした調整役になれるボランティア、NPO組織や人材の養成ではないだろうか?このことに象徴される発表ができたことはこの4回目の大きな成果である。

それは私たちが1回目から主張してきた局地的な災害でない「大規模災害」に対する「広域連携」の必要性から「協働型訓練」やその背骨となる「日本版ICS」の重要性の共通認識がようやく生まれ始めた成果と言えないだろうか。今回はこのスライド資料をお土産としてプリントアウトして、配布できればよかった。
もちろん、他にもいくつかの成果や効果があるが、もうひとつはこの間、政策提言や多くの議論の中で、「災害対策基本法」改正の成果は大きいだろう。
例えば映画『逃げ遅れる人々』にも登場する災害時の障がい者避難が避難所に行かなければ支援物資がもらえない、自宅に弁当や水も配給されない当時の現実を、避難所指定を柔軟にすることで、牡鹿半島で小規模に作られた無指定の避難所に支援物資を私たちのバイオ燃料ワゴン車がボロボロになって運ばなければならなかったような事態はなくなるだろう。
また、医療のトリアージでなく、「災害ボランティア・トリアージ」という考え方は、避難所での4区分で仕分けされる「避難所要援護者トリアージ」に進化している。そして、多分詳しくは時間がないが、各地域連携、この後の地域への病院や福祉避難所との連携が、今後の協働型訓練の方向を示している。

 

さて、私が感じた大いなる成果に対して、振り返りのメリットは現状の反省、課題、問題点を抽出することで次への飛躍を願うことだと考え、まずかった点など思いつくまま並べてみよう。

1日目のICSを使ったDIGに関してだ。(DIGというより「災害のイメージトレーニング」と呼ばない安易さに象徴されるのかもしれない)詳しくは、参考に当日、自分の後方支援部隊のL班に配る予定だった資料を後半に添付するのでそちらをお読みください。
帰りの車の中でマッピング担当だったF氏との話の中で、本部、特に作戦を立案する情報計画班は映画『シン・ゴジラ』を事前に見ておくべきだったという感想があった。「信州へ都バス千台が脱出する」といった情報で、どんなルートが、どんな避難所が必要か、確保されるのか。迎え撃つ体制づくりに必要なリソースは何かなどそこでの議論は具体的なイメージだ。刻々と変化する情報で各部隊の動きがどう変化するか。
確かに、ICSが201から始まるのは、その規模や災害対応のリソースなどを各部隊が考える「ブリーフィング」からだろう。その詳細なデーターをどう、どこから収集するのか、事前にどこまであり、どんな構築が必要なのかなど、偵察や事前作戦の重要性が共有されなければ、柔軟な現場での戦術は作れない。
毎年だが、会場では、現場の各班は「頭がパンクする」というほど忙しいが、本部は始まると手持無沙汰でワンパターンの台本を読んでいてはイメージを掘り下げることはできない。質問がなくても考えられる個別の情報をイメージで検討するセクションである。(ちなみにDIGには「掘り下げる」という意味もある)
作戦は各部隊に応じて個々の細かな指示があって実行部隊や後方支援は同じ時間軸でも全く異なる行動を取ることになる。それをさらにすべてを網羅してコントロールする力量が中枢にはなくてはならず、そこのメンバーはICSを熟知していなければならない。
今回は、私の班は実際に首都圏直下型で東京が壊滅状態になった想定で何ができるかのシナリオ、イメージが共有できたとは言えなかったろう。
実際、県南部地域までがどういう被害状況か、国道4号線、17号、16号線が通れるのか、交通機関は動けるのに何日か、徒歩でたどり着くには健常者で何時間か、途中での休息スポットなど関係自治体との調整は誰が付けるのか。
震度7以上で都内は入るのも出るのも制限される。その間、避難所設置ができる時間となるが3日で構築しなければならないとすると、といった具体的なリサーチ、物資班との情報交換や医療班との連携は欠かせない。調整は本部の誰が担当するのか、などよりリアルな訓練が望まれる。

次に2日目のHUG(避難所運営ゲーム)に関して、今回も私の班は一般的な経験者と初めてのメンバー混在だったが、唯一、面白かったのは宮城県で被災して避難所暮らしの体験者が今ではボランティアとして活動しているメンバーがいたこと、その意見が「皆様、礼儀正しく、全て考えようとして丁寧だ」とあったことだ。もちろん、これは皮肉で、現実は怒鳴り合い、「そんなことやってられるか」のせめぎあいで、質問カードをポイと投げ捨てるというパホーマンスで、確かにもうこうした定型的なゲームに飽きて、もっとリアルな避難所運営の課題を発見する方法も重要だという指摘だった。もうそろそろこのゲーム設定だけでない、災害ボランティアと地域の自主防災組織や行政とのリアルな「協働」をどう構築できるかの訓練も必要なのかもしれない。部屋割の区分などもまずは知識も大切になっている。
これには災害対策基本法の改正で 避難所での要援護者の災害トリアージという考え方の研究会のロールプレイング映像がある。参考に情報共有しておく。

このほか、こうした協働型訓練にはまだまだ各組織がどんな対応をとるかは未知数なところが多い。今回、せっかく警察関係者や県などからも多くが来ていたので、共有すべき情報も出せなかったろうか。前回は隣に防衛研究所の1佐が同席で自衛隊でのICSや市民ボランティアとの連携に関して意見交換ができた。こうした意見交換ができる時間を作るためにも、むしろ詰め込み過ぎず、休憩時間を長くとるなどのタイムスケジュールが大事だというのが一番の感想だ。せっかくの総務省の無線機展示や各団体紹介や名刺交換もままならなかった。
また、最新技術を使った、救助犬とGISやGPS活用でのデモンストレーションなど詳しい説明がほしかったという意見もあった。地図作りや3D変換なども、それ自体で情報公開の時間をもっととってもいいかもしれない。最新の物資の仕分けや集積、発送。避難所での心理カウンセラーや医療の課題などももう少し掘り下げて議論を聞かせてもらえれば、各地域に拡散するヒントにもなるだろう。

最後に、私自身の反省を含めて、まだまだICSを体に浸透するまでに至ってないことを白状しておこう。それは災害ボランティアとしての「後方支援部隊・人材養成」の班長としての感想でもある。
今回、阪神大震災の後作られた、当時の内閣官房長官であった石原信雄が創設した「災害救援ボランティア推進委員会」というのがあるが、この組織が長年、各大学などで災害ボランティアの「セーフティ・リーダー(SL)養成講座」を行っている。今回、私もその修了者組織、公益社団法人SL災害ボランティアネットワーク・埼玉のメンバーとして参加で、その講座や修了生に日本版ICS普及と人材提供できる機関にならないかという淡い期待もあるが、現実にはなかなか難しいという実感でもある。組織を維持していく難しさは、どこでも共通している。私自身の障がい者支援NPOも今年で活動を停止する。

また、東日本大震災以来、市民キャビネット災害支援部会のメンバーとして、いくつかのテーマをもらって大いなる学びや活動ができたことに感謝する。代表である松尾さんのパワーには頭が上がらないが、依然として単独での災害ボランティアが現実的にはなんの標準化されることなく、自己完結型といわれながら全く改善されない社協と対峙したり、似たようなネットワークやNPO法人ができながらまだまだコントロールが効かないのが現状だろう。阪神から20年、東日本から6年、この間も全国で災害は連発している。この教訓をどう生かして、自分たちの血肉にできるか。
確かに初心者や地域住民を参加させるには「楽しくなければ」という意見は正しい。「顔の見える関係づくり」も間違いではない。しかし、そういった「防災まつり」の手法だけでは、明日来るかもしれない首都圏直下型や南海トラフには対応できないだろう。この間の教訓が生かされるのだろうか?

だからと言って何か早急に打つ手がある訳ではないのだが、どうやって連携を広め、「協働型」による効果を最大限にできるか、真剣の考える場所も大事だということを改めて感じる。

今回もこのイベント組織自体にICSが導入されていないこと。自分の行動も災害ボランティアの基本行動である自分のことは自分でを忘れ、かたずけ時で荷物を人任せにしたり、夜間の車の運転のリスクやこの2日間での身体的な疲労で、そろそろ潮時だという自覚を大いにしているところだ。

 

※<参考>参考にICSと訓練に関して

災害ボランティア養成・管理班 訓練にむけて

いつ起きても不思議はないと言われている首都直下型の巨大地震。最悪の場合の想定 被害は死者数1万3000人、建物全壊約85万棟、避難者約700万人とも言われています。国や災害対応団体などでは18パターンの災害と規模などを出していますが、今回私たちは首都圏直下の東京都中心部を震源とする震度7の巨大地震を想定し、訓練を開始します。
訓練の目的は、二つ考えられると思います。

第一に、同一組織でない300人以上の災害ボランティアやNPO団体が結集し、実際にイベントを開催、その運営の中でICSを体験、活用することです。
第二に、ICSに基づかれた組織や部隊(班)ごとにそれぞれの目的に対応したシュミレーションをワークショップで実践し、その運用の中で、各団体や個人がICSを学び、それぞれの課題を抽出することです。
既にご存知かもしれませんが、アメリカでは災害や事故の規模に応じてIncident, Emergency, Disaster, Crisisの4段階に分けていますが、災害のマネジメントでなぜ「Incident Command System」なのかというと、一番小さな災害事故やイベント運用のシステムを学習することでどんな種類の大規模災害まで対応できるという考え方があるといわれています。このイベント運営でこそ活かされることが生きた学習です。
もちろん、図上訓練では、大きな視点の理解と自分たちのポジション、役割を学びます。そして、組織的構造からいえば、危機対応を管理する上で、指揮(Command)、計画(Planning)運用(Operation)、後方支援(Logistic)、財務(Finance/Administration)の5つの主要機能があります。
私たちは今回、その後方支援(Logistic)部隊の「人」の活用を主たる任務とする班になります。今回のミッションは、災害支援拠点の一つである「杉戸町」に集結する多くの災害ボランティアやNPO団体とICSを活用して戦力化できるかという人材養成や管理。同時に災害ボランティアの養成というものです。
実際には後方支援には、災害対応する実行部隊の資機材の管理や担当する人々をケアし、参加する市民ボランティアを短期間に養成、補充したりの基礎訓練役割と、避難してくる人々をケアし、避難所運営を円滑にできるような様々な活動が考えられます。さらに支援物資班と連携してその仕分けや配布、物流を支援するなど広範囲に渡ります。
今回、そうした全体的なICSと課題を学びつつ、現実的には「ボランティアの管理と養成」を共通の課題として抽出できればと考えています。そのためにどんなプロセスや教材、人材、組織が必要かを共に考えることができればと思います。

参加に当たっては、いくつかのICSに基づかれたマネジメントを学びましょう。

ICSのいくつかの基本は、用語や管理の統一(標準化)がありますが、さらにその基本はSelf Management(自律・自己管理)といったドラッガーが提唱しているような「個々の担当者に自らの業務目標を設定、申告させ、その進捗や実行を各人が主体的に管理する手法」という「目標による管理(Management by Objectives:MBO)」にあると思います。言い換えれば活動の原点は「現場に任せる」という、まさにボランティア的な発想ではないでしょうか。
それでも東日本大震災でも「自己完結型の」といわれながら勝手に参集する単独ボランティアの管理と活用が問題になりました。単独登山者が勝手に入山し、遭難するとどうなるでしょうか?同じような事象も発生しました。そのために導入が求められているシステムこそICSなのです。それは、情報や用語を統一すること(Common Terminology)、1人の処理能力の限界を見極めチーム編成や管理限界から5~6人程度の単位という(Span-of-Cotrol)、規模に応じて拡大縮小が柔軟である組織(Modular Organaization)、対応計画(Incident Acction Plan)など細かなことまでを標準化しています。
今回、L班では1人の班長に2人組(バディ)の3組ほどで編成されます。これが基本単位です。目標設定では、優先順位が自分の命は自分で守るという「生命の安全(Life Safty)」が第一に、そのあとで「災害安定性(Incident stabilization)、財産の保護(Propenrty protection)といわれていますが、私たち流に言えば「共助」という言葉かもしれません。救助活動においても、自分の身の安全確保の後(自助)、隣人や地域の救助・救援(共助)で、最後に「公助」に引き渡すというファースト・レスポンダーが基本です。そして、だからこそ日頃の「協働型訓練」重要だということがご理解いただけるでしょうか。

以上

 

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