埼玉県の災害ボランティア制度

4月22日に埼玉県危機管理防災センターで「埼玉県災害ボランティアネットワーク説明会」なるものが開催された。

これは埼玉県災害ボランティア登録制度が、阪神大震災を契機に作られて22年目になり、当時の設立趣旨と現在の状況が乖離し、現状に合わせた見直しが必要とのことで、内閣府(防災担当)や消防庁主催の「平成28年度災害ボランティア等の活動環境整備に関する研修会」などの影響を受けての国の「新たな共助の担い手ネットワーク事業」といった先進的施策を考慮しての制度改革という。

つまり、個人的な災害ボランティアのネットワークは県社協、あるいは各市町村で個人災害ボランティア登録が既に行われていて、各社協の災害ボランティアセンター(VC)設置訓練なども行われているので、むしろ、県としては様々な災害ボランティア団体、NPO、NGOのネットワークを支援する方向で新しい制度を目指して、従来の登録制度を廃止したいという。

国の流れからの今回の動きが検討され、既に基本的に市町村がやっていることと県が屋上屋を重ねるようなレベルではやらなくてもいい、県単位でできることを模索するということのようだ。
それでいて会場では、県単位で何ができるか、何を準備しなければならないかの基本コンセプトが何かの説明が不足しているといった感想が、実際、今回のグループ討論でも熊本支援から帰ってきた方が、「市はあれだけ頑張っているのに県は何もしなかった」という意見として挙げていた。
地震が少なく危機感のない埼玉県にあっても、熊本の例では、「日本のどこで震災が起こっても不思議ではない。常に備えよ」という教訓を与えていると同時に、その熊本での体験報告でも「何も教訓が活かされていない」という訴えがあった。

そもそも阪神大震災時に作られた制度が20年経っての見直しという流れは理解できるが、県としては何を考え、今は何を考えようとしているのか立ち位置の説明がもっと必要だろう。
個人は基礎自治体に任せて、団体をネットワークして社協に丸投げのように聞き取れるのもあまり感心しない。実際、今回も社協に半分は丸投げに近い実務を任せるという。だが、何回かの県社協との交渉での実感では、そもそも社協は福祉関係の日常業務で、災害対応のプロはいないと断言できる。もちろん、県の担当者も2名では多分同じことだろうと理解はできる。だからこそ「協働型」の仕組み作りが大切な訳だ。

おまけに、これだけの説明をわずか20分程度で質疑応答もなしに、従来の社協や市町村レベルの「災害ボランティアとは何か」といった入門講座の繰り返しでは、少なくとも私のテーブル参加者の多くは3.11や熊本までの経験者であり、豊富な意見の持ち主でもあったことから、そうした実績や教訓をくみ取れるような会議運営が望まれる。
県内の団体、NPOなどをネットワークするとしているが、これらの人材に匹敵する災害対応団体が県内にどれくらいあるのか私は知らない。同じような繰り返しにならないことを祈りたい。
再構築するにしても、そうした社会的人材リソースをいかに活用するか、県社協などとの円卓会議のような「場」づくりが先であるように思う。
今回の企画のレベルの低さは、実は行政の抱える課題がそのまま出ているとこの数年感じている。それは既に行政の内部的な政策・施策能力が時代に合わないという欠点でもある。職員組織の改革が急務だろう。
まずは市民との「協働」以前に、例えば今回の「危機管理部」の職員がどれくらいの市民担当やボランティア担当の経験者であるかといえば、「危機管理」ゆえの自衛隊や消防出身などの専門家、危機管理監とかの立場で市民との折衝や交流経験がない場合が多い。担当者の経験、スキル、リソースに課題がないか。
だから市民との会合では、いつも一般住民を対象とする聞きかじりのワークショップ、DIGやHUGといったゲーム、今回はワールド・カフェといった新し、珍しものでお茶を濁しかねない。どこの地域へ行っても同様の講座ばかりであるのも事実である。
確かに各市町村レベルの焼き直しの県での活動では仕方ない。まるで金太郎飴のような組織しか作れないのなら、県での組織化は非現実的であるだろう。酷いのは既に知り合いの団体やコンサルのいわれるままという場合もあり得る。どこの意見を採用するかの事前協議や広報もない。広く市民の意見を収集するという知恵がない。

さらに言えば、まずは庁内で各担当部署との「協働」がスムーズであるのだろうか、という疑問である。自治会・町会担当、市民担当、ボランティア支援センター担当といった普段から市民に接している職員との合同企画であればもう少し違ったのではないだろうか。
また、現実に県社協の担当者が代わりにできるのか、消防団、消防や警察のどの担当者が共通理解できているのかの根回しなど可能なのだろうか?実際に担当する人材をこうした場に参加させなければ「顔の見える関係」は構築できない。
さらに言えば、そうした各セクションに横串を刺せる指示命令系統の存在があるのか。庁内や関係部局との連携がどのくらいスムースであるのか、まずはそうした内部努力や統制ができる体制やICSのマネジメントの可能性があるのか知りたいところだ。

次に県レベルでの「災害ボランティア」に何を望むのか、そのボランティアの役割とか意味がわかっているのかというところにある。社協への丸投げ同様、災害ボランティア団体といっても実績のあるNPOやNGOを選ぶのは難しい。団体によっては利権になり、最新情報や実力が不足した団体が請け負って、実際、絵に描いた餅で従来と同じ程度の動きしかできない実例もこの数年間は明らかになってきている。

県内でどれだけの団体がノウハウを持って実績や知見を有しているのか?ボランティアのレベルが「プロボノ」といわれるようなスキルを持った、かなりわかっている実績のある人材を集める必要がある。特に、今回の3.11以降は「ボランティアの時代」といわれた20年前と異なり、「IT×ボランティア」の時代といわれるように、ITやSNSへの力量は欠かせない。災害時の情報ボランティア養成も県単位でなければできないだろう。

そして、県の「災害ボランティア」組織は、町会や自治会の有志で作られる「自主防災組織」でもないということである。災害が必ず地域で起こり、基礎自治体と連携して自助・共助・公助までもがスムーズに行われるシナリオなのだろうが、はたしてそうした過去の例が現実なのだろうか。
ならば「阪神・淡路大震災から時代が変わった」という認識はどうなっていいるのだろう。3.11での教訓は役場ごと津波で流され、基礎自治体が機能不全になるような被災地になる「広域大規模災害」への対応である。
同時に様々な自治体や団体からの「外部ボランティア」とそれを受け入れる、各被災地における「内部ボランティア」などの「協働型災害対応」の重要性だろう。だからこそ、熊本でまだ様々な事例が報告されるような「ムリ・ムダ・ムラ」のある災害支援のあり方が反省されるべきであり、課題を抽出する必要がある。
こうした市町村の自主防災組織では対応できない、県レベルでの災害ボランティアの養成や構築が求められるのである。県の役割は以前に増して大事になってもいる。

3.11、熊本震災での災害ボランティアへの課題はかなり明確になってきた。団体同士の情報共有の場がない、団体活動へのコーディネート機能が不十分、団体が災害対策本部と情報共有する場がない、という欠点を改善したいという方向は国も示している。2年ほど前に県の災害対策本部にようやく市民が加わり、時代は確かに大きく変わりつつある。災害対策本部との協働型図上訓練参加という目標は大いに評価できる。期待も大きい。

4年間に及ぶ杉戸町での「首都直下型大規模災害対応」や「協働型災害対応」の経験で自治体職員や災害ボランティア団体も大きく認識が変わりつつある。それは大規模災害時には住民による自主防災組織とは異なる、外部ボランティアや行政などとの広域連携の仕組み作りの重要性であり、そのマネジメントである。そのひとつがICS(インシデント・コマンド・システム)として私たちは位置付けてきた。

この週末、熊本の災害ボランティアセンターが閉鎖された。当日、集まったボランティアは130人を超えたそうだ。それに対し3件だかの支援要請があったというニュースが流れた。多くのボランティアは復旧支援すらできずに災害VCに待機させられたのだろう。これを「ムダ」といわないのだろうか?こうした現状にも疑問を持たないようでは、後を引き継ぐ社協の職員もかわいそうである。災害対応は国や県レベルでの対応と、被災地や基礎自治体との役割の分業が大切だろう。せめて、担当者はその認識をもってほしいものだ。いま、「協働型災害対応」の災害ボランティアは大きく変化し、成長している。そことの連携を望みたい。

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